------------------------------------------------------------------------ すばる第2期観測装置 MOIRCSのGuaranteed Time (GT)に関する経過説明 2005年5月10日 すばる小委員会 1、はじめに MOIRCSのGT観測として、従来の第1期観測装置に割り当てられていた20夜と いう数字を大きく上回る50夜の要求がMOIRCSチームから提案されています。 このような大きな提案が出て来た背景については以下に述べますが、ここ では、2005年1月から主にすばる小委員会で審議してきた内容と経過につい て、すばるのユーザーコミュニテイへの説明を行いたいと思います。大きな 問題であり、小委員会では、ユーザーコミュニテイからのフィードバックを とり入れながら慎重に審議したい意向ですが、一方で、ゆっくりと審議して いては50夜の提案の趣旨を損なうために、早いタイムスケールで審議し決断 する必要もあります。次のすばるの公募を前に、なるべくなら今年の夏には 決めておきたいと考えています。そこで、このような説明を光天連のMLに流 すことにしました。御意見等を小委員会に頂けると幸いです。 (ML上での議論は避けたいと考えています。) 2、MOIRCS GTの概要とその背景 MOIRCS GTの内容は、GOODSーN領域(α=12時台)を中心にSA22領域(α=22時 台)を含め、過去にない広さと深さでJ、H、Kでの撮像観測を行う(約25夜)。 この撮像データから抽出される天体について、MOIRCの多天体分光モード(MOS) で追究のための分光観測を行う(約25夜)。 これらを2年程度のタイムスケールで行う。と、いうものである。 科学的な目標としては、高赤方偏移(z>1)における銀河の進化や形成、大規 模構造との関係等である。特にGOODSーN領域では、HST/ACSやSPITZERによる 撮像データをはじめ多くの多波長データが世界的に公開されているが、銀河 進化等の研究に不可欠な近赤外での撮像データとしてはまともなものがない のが現状である。このため、MOIRCS GTでよいデータを出す事によって、飛躍 的な科学的成果が期待される。また、処理済データをなるべく早く世界に公 開することによって、世界の天文学の発展に日本からも資するという目標も ある。 このような提案の背景には、MOIRCSが広視野・高感度といった、世界のどの 8m級望遠鏡にもないユニークな性能も持っていることがまずあげられる。こ の状態は、ここ2、3年は継続すると考えられるが、その後には、同様の性能 を持つ装置が世界的にも次々と立ち上がってくるために、MOIRCSのユニーク な特徴を早期に活かして、世界に先駆けてよい成果を出していくことが肝要 であると考えられることが一番大きい。このことは、単にMOIRCS GT問題だけ でなく、一般の共同利用においても考慮されるべき事柄かもしれないが、こ れについてはここではこれ以上立ち入らない。 もう一つの背景としては、第2期観測装置では、第1期とは異なり、共同利用と してオープンされるなかでGTを実行していなければならないという事情がある。 第1期では、保護天体が設けられたことがあったが、MOIRCSの場合は保護天体 (領域)を設定しないかわりに、チームとしてサイエンスの刈り取りを行う為に は一定の夜数が必要となるという側面もある。もし、共同利用でINTENSIVEと して20夜を割り当てられれば、GTの意味がなくなる事になるからである。 以下、審議の経過を時系列で報告する。 3、第1回すばる小委員会 2005年1月26日 この回では、すばる専門委員会からの引き継ぎや、小委員会の性格づけ、委員 の拡充等が主に議論された。この中で、すばる小委員会が扱う事項の一つとし て、ハワイ観測所等からMOIRCS GT観測が挙げられた。比較的短期に決めるべ き課題ということであった。同時に、MOIRCSチームからの提案書の概要が説明 され、MOIRCSの戦略的投資の重要性が指摘された。 小委員会での議論としては、 *Deep imaging の性能を評価するということから、今春行う2-3夜程度は Engineering Time (ET)として行うのが妥当(現在までETを6夜しか消化 していないこともある。) (小委員会後の注:実際には、5、6月にもETが行われる。) *GTは20夜というのが原則なので、それ以上の部分については、観測所プロ グラム、intensiveとか、戦略枠といった新枠設置等考えられる。 *いずれにしても、ある程度オープンな形で、MOIRCSのチームとの共同研究 体制を強化していく事が必要であろう。 と、いうような議論があり、MOIRCSのヒアリングを次回の小委員会で行う 事になった。 4、すばるユーザーズミーテイング 2005年2月22-23日 すばるUMにおいても、MOIRCSチームから、提案のGTの説明があった。 議論では、MOIRCSの戦略的投資に理解を示し、世界的に貴重なデータを出せ ることから、是非推進すべきであるという内容の発言が複数あった。春にGT が集中するので本当に大丈夫かどうか検討すること、計画の完成度を高める 事等のコメントはあったものの、反対という趣旨の発言は特には見当たらな いと考えられた。すばる小委員会からは、UMでのこの雰囲気を元に議論を進 める旨発言があった。また、第1期では20夜ということになっていたので、 50夜で実施するにはそれなりの根拠が必要であるとの発言も行っている。 #有本委員長不在の時だったので太田が代理で発言しておきました。 5、第2回すばる小委員会 2005年3月7日 MOIRCSチーム代表の市川氏に来て頂き、まずMOIRCSの立ち上げの進捗状況 とGT観測計画の説明がなされた(30分)。 これまでGTは20夜だったが、複数のライバル装置が今後1〜2年以内に立ち 上がるため、現在達成できた世界最高性能を生かして早い時期に成果を出 すべきこと、GTと並行して実施される共同利用観測、特にIntensiveとの 競合が予想されること等を勘案して、是非50夜の配当をお願いしたい、 との提案であった。 各委員からは次のような意見が出された。 ・ UMの議論でも同様だったが、50夜認める方向で行きたい。ただ、 観測データの公開とコミュニティ全体から研究者を募ることが必要。 ・ FMOS、新AOが入ってくるので、GT20夜でも時間的には難しい。 ・ 共同利用枠(65%)を削っても、成果を世界に発信できるのならよいのでは? ・ 共同利用枠にしわ寄せが行くことになるので、研究領域(分野)別に 採択率を変えることも考えられる。 ・ 観測データを公開する一方で、個人の業績を守っていく必要もあり、 その兼ね合いが難しい。特に院生の研究テーマ確保は必要。 等の意見が出た。 提案のままでは、他の研究者をどう取り込むかといったスキームも見えないし、 GT提案受け入れの可否については、次回の委員会で再審議の上決定する事となっ た。この際、MOIRCS GT、FMOS等も想定して、一体どの程度の夜数の厳しさに なるのか、特に倍率の高い、3、4月にどうなるのかのシミュレーションを行う ことと、GTとして推進する場合の基本的な考え方、クリアすべき問題点等の整 理を行う事が宿題となった。 なお、MOIRCSの共同利用への公開は現状では時期尚早のためS05Bでは見送る 事とした。 6、第3回すばる小委員会 2005年4月12日 MOIRCS代表の市川氏は所用の為欠席、代わって、チームの一員である山田氏が 出席(山田氏は今回は、MOIRCSメンバー、小委員、共同利用担当の3つの立場が あり、それぞれの立場で発言された。) (1)まず、宿題となっていた、スケジュールのシミュレーション結果の報告が あった。 MOIRCS、FMOSのGTにそれぞれ50夜、100夜を割り当てた場合 にすばる望遠鏡の短期的運用(2005年〜2008年)がどうなるかの予測が 示された。FMOSについては、100夜に特に根拠があるわけではないが、FMOSWS 等で300夜等という提案もあるので、MOIRCSより多めにして、目安として、 2007年1月以降毎月5夜を機械的に割り当てた。(ETも含んでいる。) これによると、共同利用夜数が各セメスターで30夜程減る勘定になるが、 新AOへのGT割り当てを考慮していないため、実際には更にもう少し減るこ とが予想される。 共同利用にどの程度影響があるかについては、最近の採択倍率は件数ベースで 4倍、夜数ベースで約5倍だが、今後もし同程度の応募数があれば、採択倍率 は夜数ベースで6倍に上がると予想される。ただし、MOIRCS、FMOS供に暗夜を 要求しているわけではないため、暗夜の減少はなく、観測装置/対象によって 影響が大きくでるということはなさそうである。 (2)MOIRCSのGT観測については、本年2月のすばるUMにおいて「是非やる べき」との発言が複数のユーザーからあり、一方それに対する消極的な意見は みられなかったという認識である。このため当委員会でもGT観測を推進する 方向で検討を進めている。 MOIRCSが成果を出すためには、拡大MOIRCSチームの編成が必要で ある。それを前提にして、明確にしておくべき点等について、MOIRCSの GT提案について評価案(資料2)にもとづき以下の内容について検討した。 <サイエンス面> ・撮像の夜数について、JHKの三色でないとだめなのか?優先順位を  つけてやってはどうか?  −−>三色必要である。既存のGOODSーSのデータではHが欠けて     いるので、GOODSーN(MOIRCSについてもまずJ,Kを観測し、 次にHも観測したい。 ・今回のGT提案書では分光について詳細に言及していないが、どういった 内容か?  −−>分光については次の試験観測を経て改めて提案する予定である。     撮像した領域を分光することになろう。遠方の輝線天体が中心となる。 ・他波長観測を進めているグループ(HST,Spitzer,Chandra)から計画の recommendation letterが回覧された。 <拡大MOIRCSチームの提案> ・コアチーム(装置グループ)メンバーの確認:GT提案書に列挙してある10 名に、ポスドク1名、東北大学の院生が1名新たに加わり、総勢12名である。 ・GTとしてこれまでに例のない50夜を割り当てるにあたって、  MOIRCS コアチームを含む拡大MOIRCSチームを編成して、取得データの処理 解析への協力や、サイエンスアウトプットの最大化をはかるというスキーム で推進すべきである。  この答申を所長/光赤外専門委員会にあげて、所長からMOIRCSチームに提案 してもらい、MOIRCSチームとしてよければこの方法でGTを遂行することを強 く望む。 ・拡大MOIRCSチーム編成にあたっては、  5月13日、14日にMOPIRCSワークショップが開催されるので、  その際に拡大MOIRCSチームのメンバーを募ってはどうか?  −−>他分野(銀河以外)の人はそもそも研究会に来ないケースが     比較的多いので、WSの案内を出す際に、拡大チーム編成の趣旨も     天文コミュニティに回覧しないといけない。  −−>コアチームと拡大チームの役割分担、権利を明確にしておく必要が     ある。コアメンバーの研究テーマ(特にD論)は確保したい。 ・拡大MOIRCSチームの編成はコアチームが主体的に進める。  外国人の参加は今のところ考えない。  コアチームが拡大チームに遠慮せずにやりたい研究がやれる条件を確保  することが前提となる。但し、コアチームが漠然と何でも確保してしまう  と拡大チームが何に参加するのかわからないことになり、積極的な参加が 望めないかもしれないので、ある程度はっきりした課題として確保してお くという方法の方がよいだろう。(程度問題で難しい面はあるだろうが) ・単にデータ処理のサポートというだけでは、人が集まらない恐れがある。 ・新しく拡大チームに参加したいという人にとって垣根が低いのはいいこと  だが、コアチームがコントロールしにくくなるのは困るだろう。  そこの兼ね合いが難しい。 <拡大チームと観測所の関係> ・拡大チームには観測所が拘わることは当然であるが、コアチームを支援する  形で行われることが望ましい。 ・具体的には、観測所が、RCUHでポスドクを2名程度雇って、データ解析の  パイプライン化等を担当してもらうこと等は可能である。 ・三鷹では解析サポートなどを主な業務としてポスドクを雇っている。  RCUHで雇う場合には、他のエンジニアの採用などとの競合になる。 ・どんな人材が必要か  −−>赤外や多天体分光のノウハウのある人が望ましい。 <GT提案書の公開及び国際協力> ・GT提案書は5月のWSで公開するが、海外への公開は今後検討する。 ・UHとの関係は今後の検討課題ではないか。 <データ公開> ・生データへのアクセスはコアチームと解析サポートのメンバーに限る。  生データは通常通り18ヶ月後に一般に公開する。 ・処理済みデータは拡大チームで共有し、国際コミュニティへは観測が  終了してから1年を目処に公開する。 ・GOODS−Sのデータが既に出ているので、GOODS−Nもそれと  同程度のことはやる必要がある。処理済データは可能であれば  すばるのウエッブページで公開したい。 ・成果論文の特集号などが出ると、国際的にはインパクトがある。 <Review> ・すばるで50夜を使う以上、責任ある人がレヴューする必要がある。 ・当委員会が行うか、当委員会がレヴューアーを委嘱する形になる  だろう。 ・国際レヴューも必要ではないかという意見があった。 ・GT50夜配分のためだけでなく、サイエンスの中間見直しのためにも  レヴューは有効である。  継続に値する成果が出ているかどうかを見極める必要がある。 ・レヴューの目的の一つとして、観測が必ずしも理想どおりに進まない  場合や、観測限界が想定どおりではない場合に、見直しをどのように  するのかをはっきりしておくということがある。 <共同利用との関連> ・GT開始と同時に、競合は覚悟の上でMOIRCSを共同利用に  公開する予定である。 ・これまでは各分野の採択率が大体同じになるように採択してきたが、  MOIRCSが加わったことによる影響をどうするか、TACで  審議する必要がある。  しわ寄せは銀河の人だけに行くのか、それとも全体に影響するのか?  全体にある程度の影響が出るのはやむを得ないが、銀河の人への影響の  ほうが大としないと、コミュニティ全体の理解は得られないのでは  ないか? <空き時間の活用> ・観測前後に生じることのある空き時間の有効なる利用は、MOIRCS 拡大チームの問題でなく、観測所が取り扱うべき事柄である。  MOIRCSの空き時間に限らず、空き時間全般についての  議論をしていく必要がある。 ・MOIRCSを共同利用に公開する最初のセメスタでは、コアチームに 空き時間を有効利用してもらい、次のセメスタからリスクシェアでサービス 観測に公開するというのも一案である。 ・シーイングの悪いときにどうするか?0.8秒が1つの目安になるだろうが、 バックアッププログラムを用意する必要がある。 ・観測所として長期に渡るデータの蒐集(例えばライブラリの作成)の  ために空き時間を利用するという可能性もある。 <装置の性能> ・プロジェクトをスタートさせるために十分な性能があるかどうか不安が  残る。提案書に示されたチャンピオンデータ(0.23arcsec)の頻度を  考慮する必要がある。 ・フリンジの除去やフラットについてはどうか?  −−>フリンジの除去は解析の中ではできる。フラットについては     次の試験観測(5-6月)で確認したい。     精度については現状では数%を目標にしている。 結論として、小委員会としては、大きく次の3つを条件として、推進する方向 で進める。 *拡大MOIRCSチームを作りサイエンスアウトプット等の最大化を計る。 *拡大MOIRCSチームとしてさらにつめた提案を出してもらい、レビュー受け た後にGOサインを出す。 *中間レビューを受け、性能が出て予定通り進んでいるかどうかのチェックを 受ける。(天候のファクターもある) 小委員会としては、これを光赤外専門委員会/所長にあげ、MOIRCSチームとしても 納得がいくなら、この線で進めることを提言する。 7、光赤外専門委員会 4月26日 有本すばる小委員会委員長が観測の為に不在であったので、太田すばる小委員 会副委員長が経過や提案について簡単に説明した。 市川委員からはMOIRCSチームとしては、基本的にはこの線でよいという発言が あった。 専門委員からは、初めて聞く話で、経過がよくわからない。 経緯、検討状況、ユーザーコミュニテイの意見分布等をまとめて次回専門委員 会にはちゃんと承認してもらう。 また、TAC、観測所と時間配分まで考えて承認を得ながら進めないといけない。 等の意見があり、提案は承諾されなかった。 路線については、特に反対の意見はないようだったので、小委員会としては、 この線で検討を続ける。ただし、小委員会は開催頻度も高く、専門委員会の ペースではついていけないということだったので、光天連のメーリングリスト などを利用しながら、ユーザーコミュニテイや専門委員、観測所、TAC等との 風通しのさらなる改善を行いながら、承諾をとれるように今後すすめる。 8月に予定されているすばる小委員会シンポ(仮称)までに決まらなければ、 同シンポにおいて意見分布をみて、最終決定する。 以上